大判例

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東京高等裁判所 昭和24年(ネ)966号 判決

控訴人等代理人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和二十三年七月三十一日政令第二百一号『昭和二十三年七月二十二日附内閣総理大臣宛連合国最高司令官書簡に基く臨時措置に関する政令』を制定した行為はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

三、事  実

当事者双方の事実上並びに法律上の主張は、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

四、理  由

本訴は、控訴人等において、昭和二十三年政令第二百一号「昭和二十三年七月二十二日附内閣総理大臣宛連合国最高司令官書簡に基く臨時措置に関する政令」は、形式的にも実質的にも憲法に違反するものであつて、その制定行為によつて、控訴人等の憲法上保障せられている団結権、団体交渉権及び団体行動を行う権利の如き基本的人権が侵害せられたと主張し、右政令制定行為を以て行政庁の違法なる処分として、行政事件訴訟特例法に基き、その取消を求めるものである。

ところが、右政令は、昭和二十年勅令第五百四十二号「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件」に基いて制定せられたものであつて、控訴人等公務員のみを対象とするものでなく、同令施行当時の凡ての公務員並びに同令施行後公務員となる者に対しても均しく適用せられ、従つて現在並びに将来の抽象的な不特定多数の公務員に対して、新たな義務を課するものとして制定せられた、抽象的規範を内容とする所謂法規命令に該当し、その有効無効に拘らず、一般的な成文の法令をなすものであることは、右政令自体からみて、洵に明かである。

よつて行政庁の行為が、右政令のような抽象的規範を内容とする一般的な法令の制定ということによつて行われた場合において、その行為が行政庁の処分であるとして、裁判所にその取消を訴求することができるかどうかについて考察する。

憲法第七十六条が「すべて司法権は、最高裁判所及び法律に定めるところにより設置する下級裁判所に属する。」と規定し、以て裁判所にその固有の権限として帰属させている司法権の作用は、具体的な事実について訴訟手続をへたうえ公権的な判断によつて、適用せらるべき具体的な法を確定し、これを宣言することにある。このことは三権分立制のもとにおいて、司法権の作用として、伝統的に理解承認せられているところであり、わが憲法のもとにおいても、これを別異に解すべき根拠はない。従つて民事々件または行政事件として、裁判権の対象となり得るためには、具体的な権利または法律関係の存否について関係当事者間に争いのあることが必要であつて、具体的な法の適用についての争いでなく、その判断の前提となる一般的な法令の存否や効力についての争いそのものは、裁判所の本来の権限の対象とはなり得ないものと解する。裁判所法第三条が、裁判所は「法律上の争訟」を裁判する権限を有する旨を定めているのも、要するに、右の趣旨を明かにしたものであり、また憲法第八十一条に定める裁判所の法令審査権もその法令が具体的な権利または法律関係に対して適用せられる場合において、始めて、その具体的事件に対する裁判を通じて行われるに過ぎない。

これを本件についてみるに、控訴人等が前に述べたような行政庁の法令制定行為の取消を訴求するということは、畢竟するに、一般的な法令である右政令の効力についての争い自体を、独立の問題として、その審判を求めるものに外ならないのであつて、控訴人等が右政令の制定によつて侵奪せられたとする控訴人等の具体的な権利の存否を争うものでないから、仮りに、控訴人等の主張するように、右政令の制定が特別の意図に基くものてあり、またその制定によつて直接に多数の公務員が重大なる不利益を被つた事実があつたとしても、裁判所の権限が前記説明のとおりである以上、右政令制定行為を行政庁の処分として、これが取消を訴求することは、裁判所の権限に属しない事項について、裁判を求めるものであつて、本訴は不適法といわなければならない。

なお、控訴人等は、被控訴人内閣の指定代理人として、法務総裁が法務府職員を指定したことは、違法であると主張する。しかし「国の利害に関係のある訴訟についての法務総裁の権限等に関する法律」第六条第二項によれば、法務総裁は、行政庁を当事者とする訴訟について、必要があると認めるときは、所部の職員でその指定するものに、その訴訟を行わせることができる。而して法務総裁は、政府における法務を統轄し、法律問題に関する政府の最高顧問の立場にあり、法律案並びに政令案の審議立案に関する事項を掌る権限を有しており、この法務総裁の管理する事務は法務府において、これを管掌しているものであるから、本件のように政令の合憲性が争われ、かつ裁判権の有無という純粋の法律問題が訴訟の核心をなしている場合において、法務総裁がその必要ありと認めて、所部の職員たる法務府事務官を、被控訴人の代理人に指定して、本件訴訟を行わせたことは、少しも違法でなく、右指定代理人によつて実施せられた訴訟行為には何等の瑕疵がない。従つて控訴人等の主張は採用できない。

以上に説明したとおりであるから、本訴は結局不適法として却下すべきものである。これと同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。よつて民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺葆 浜田潔夫 牛山要)

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